あの日の追憶
第三話
コンコン
(返事がないな。寝てるのかな)
「瑠唯?入るぞ。」
一言言って瑠唯のいる病室のドアを開けた。するとそこには綺麗に畳まれた布団があり、まるでそこには誰もいないような部屋だった。
「瑠唯?」
近くを通りがかった看護婦さんに聞いてみると、
「ああ、佐野さんなら、病室が変わったんですよ。」
「病室が変わった?どこに変わったんですか?」
「確か…235号室だったはず。」
「ありがとうございます!」
俺は走って瑠唯の病室に向かった。行く途中何回か『院内は走らないでください』と注意を受けたが気にせず走り続けた。みんなはマネをしないでくれ。
ガラっ
勢いよう扉を開けると瑠唯の間抜けな声が飛んできた。
「うわぁ!?何事?!なんだ颯真か。もうびっくりさせないでよ」
「はぁ、はぁ。…なんだじゃねぇよ。部屋変わったなら先に言っとけよな」
息を整えながら言うと瑠唯は
「あれっ。言ってなかったけ?」
「聞いてねーよ。」
「ごめんって。今度からは気を付けます!」
瑠唯は敬礼のようなポーズをして言った。
「ほんとだな?あー疲れた。こんなに走ったのいつぶりだよ…」
「走ってきたの?なんで?」
「それは…」
「何何?もしかして私が死んじゃったと思ったとか?」
俯いて返事に困った俺の顔を覗き込みながら言った。俺は図星をつかれ動揺しながら思った。こういう時は本当に鋭い。
「ふふ。本当、颯真私のことが好きだよね。」
「なっ?!」
「知ってたよ。前から。毎朝わざわざこの病院の下を遅刻して通ってた事。わたしが起きる時間を考えてのことでしょ?」
俺は黙るしかなかった。だって、俺の行動の意味が全部バレバレだったんだから。
「颯真?どうしたの急に黙って。ばれたのがそんなに恥ずかしかった?」
「そりゃ、そうだろ!今までやってきたことが本人にばれてて、しかも俺が瑠唯を好きだった事だって…。」
「恥ずかしがる事なんて無いんじゃない?私は嬉しかったし。」
「…いつから気づいてたんだ?」
「う~ん、颯真が病院の所を毎朝通っていくのに気づいてからかな。」
俺はため息交じりで言った。
「結構前じゃん…」
「私ね颯真の気持ちに気づいてからちゃんと考えるべきかなって思ってたんだ。で、その答えが今完全にまとまった。」
「え。ちょ、待て待て、俺は答えが欲しいとは言ってないぞ。」
そんなことはお構いなしに瑠唯は話を進める。
「颯真。私もね好きだよ。颯真のこと。恋愛対象として。」
「…」
俺の思考は完全停止。頭の中が真っ白になった。「颯真?聞いてる?」
「え?あ、あぁ」
「でもね、付き合おうとは言わない。」
「なんで」
「…言いにくいんだけど、というか自分から言うのは辛い方が正しいのかな。主治医の先生がね、私の余命はもってあと5年。今より進行が早まるとあと1年なんだって。」
瑠唯の病状を聞いたのは今日が初めてだった。そんなに病状が進んでいたなんて知るわけもなかった。でも、俺の答えは決まっていた。
「そんなことが理由かよ。」
「そんなことって!」
俺は瑠唯の口を手で塞いだ。
「病院で身体的なケアをするなら、俺は精神的に瑠唯を支えたい。だから今までできなかったこと。一緒にやろうよ。俺に出来る事なら何でもする。」
「颯真、なんかキモイ。」
「え、」
「でもありがとう」
瑠唯は目に涙をためながらベッドから降りて俺に抱き付いてきた。そして抱き付きながらまるで泣き顔を見られたくないかのように顔を隠して言った。
「たぶん、いっぱい迷惑かける。いっぱいわがままだって言う。これからどんどん病気が進んで見ていられないくらい辛くなるかもしれない。それでも、それでも颯真は良いって言うの?」
俺はそんな瑠唯を抱き返しながら言った。
「瑠唯は何でも一人で抱え込みすぎなんだよ。今までだって俺に頼ってくれたって良かったのに、やっと頼ったと思ったらプリン買って来いとかそういうのばかりだし。もっと俺に頼れよ。」
「っ。そんなこと言って前みたいに影から見守るとか親みたいな事やめてよね?」
お、親…。そんな風に見えてたのか。
「わかってるって。それより、これ。」
俺は今までずっと手に持っていた箱を手渡した。
「これってもしかしてプリン?あれなんか色がいつもより薄いような気が…。」
「よくぞ気が付いてくれた!それはな期間限定のカフェオレプリンだ。」
瑠唯は不思議そうに聞き返した。
「カフェオレ?ってコーヒーの?」
「そう。コーヒーのカフェオレだ。普通のプリンと違って甘さ控えめ、しかも珍しいからたまにはこれも良いかなって思って俺の分も一緒に買ってみたんだ。」
「へぇ。スイーツに熱く語るのは珍しいね。はい、颯真の分。『いっせーの』で食べない?」
「いいなそれ。」
「「いっせーのでっ!」」
二人同時に口の中に入れ、先に口を開いたのは瑠唯だった。
「ちょっと苦い。でも意外とイケる!」
「確かに。瑠唯はどっちが好き?」
「ん~。どっちかって言うと普通の方かな。でもたまにはこういう期間限定とか季節限定とかも良いね。またなんか新しいのあったら買ってきてね。」
「甘いものも必要だな。なぁ瑠唯、次は何が…瑠唯?」
瑠唯の方を見るとプリンの瓶を握り占めて何か考え込んでいるようだった。
「…ねぇ、颯真。来週の日曜日、一日だけ外出できるんだよね。私、海行きたい。連れて行ってくれないかな?」
「いいけど、そういうのって家でゆっくりするのが普通じゃないのか?」
「うん、親にも言われた。だけど次いつ外出許可が出るかわからないから。もしかしたらもう病院から出られないかもしれないし。」
「わかった。来週の日曜日だな。準備しておけよ。」
「うん!楽しみにしてる!」
来週の約束をして病室を後にした。
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