俺の新妻~御曹司の煽られる独占欲~
 

「どうして就職しちゃいけないの? 私もう、二十三歳だよ!?」

このやりとりを、一体何百回繰り返しただろう。

「鈴花はもう立派に働いてるだろう」

朝食を食べ終えた居間で、真剣な顔の私に向かって穏やかに笑うのは、日野屋の六代目主人で私の父だ。

レトロなデザインの丸い眼鏡に白髪の混じる短髪。人の良さそうな丸顔に、少したれ気味の目は笑うと線のように細くなる。

確かに父の言う通り、私は実家が経営している旅館で女将見習いとして働いている。昨日も夜まで働いたし、今日は午後から仕事に出る予定だ。

でも私が言いたいのは、そういうことじゃない。

「だから、私はこの旅館じゃなくて、違う場所で働きたいの!」

私がそう主張すると、白いワイシャツの上に日野屋という屋号と家紋が染め付けられた藍色の法被を羽織ろうとしていた父の肩が、しょぼんと落ちて小さくなった。

「鈴花は、日野屋が嫌いなのかい?」

まるで捨てられた子犬のようなさみしげな表情でみつめられ、思わず「ぐぅっ」と言葉につまる。

「嫌いなわけじゃないけど……」

そう言いながら手を伸ばし、父の肩からずり落ちた法被を綺麗に直してあげた。

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