夢はダイヤモンドを駆け巡る

第4話

 冷たさと鋭利さの混じり合った言葉に、わたしは一瞬、耳を疑った。関係ない、って言った?

 強烈な一言に、松本くんの目が良くも悪くも意識を取り戻したように見える。

 目の焦点が元通りになり、小神を見上げた。

 しかしそこには依然として感情らしきものはなかった。

 そんな松本くんの様子には構わず、小神は続ける。

「松本大輔が堅実に生きようが野球選手になろうが、私の人生は一ミリたりとも狂いやしません。
 星野さんの人生だって同じです。こんな私たちの人生を狂わすことさえできないあなたの選択が、ましてや世界を動かしますか? そんなはずないでしょう。

 あなたが野球選手になることで世界が滅亡しますか? 戦争が起きますか? 飢饉が起きますか? そんなことあり得ません。

 何を恐れているんですが、この阿呆男」

「ちょっと、何言ってんの!」

 言い過ぎでしょうが! わたしは小神を止めに入る。けれども小神はわたしの制止など耳にも入らぬ様子だった。

「今は江戸時代ではないんですよ? 職業選択の自由があります。あなたはただ野球とともに人生を過ごしたいだけだったのではないのですか? あなたは自分の気持ちに嘘をついている」

 小神がこれほど声を張り上げる光景を、当然それまでのわたしは目にしたことがなかった。

 首には血管が浮き出て、顔も上気している。

 興奮状態に小神が置かれることだって、あるのだ。

 わたしは彼がそれほどまでに誰かのためを思う熱血漢の側面を持っていることに、その時初めて気づかされた。

 松本くんはと言えば、彼も彼で芯のある男だった。

 小神の歯に衣着せぬ言葉の数々にひるむどころか、それまで腑抜けたようだった表情が一変、悠然と立ち上がり小神を睨み付ける。その目の光は獣のように獰猛だった。

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