夢はダイヤモンドを駆け巡る
 夢を見ること。夢を追いかけること。

 本当はそれは、この世に生まれた人間すべてがもつべき権利だ。

 でもそれは必ずしも行使することが出来る権利であるとは限らない。

 誰もが夢を追いかけられるほど恵まれているとは限らないのだから。

 松本くんは息を大きく吸い、吐き、吸い、吐く。

 そうしているうちに少し顔色が落ち着き、冷静さを取り戻したようだった。

 語気を平生のそれに戻し、松本くんは続けた。

「先輩は俺の家庭の事情なんて知らないし、知ったところで理解も共感もできないはずです。金持ちは傲慢だから困るんです。自分の価値観をすぐに人に押し付けようとする。奨学金がなければ高校にも通えない家庭のことなんて、先輩には絶対に分かりっこないんだ。

 何か好きなことを自由にやりきる権利なんて、俺の家にはないんです。だから放っておいてください、俺の人生のことなんて」

「松本くんってお金持ちの人以上に傲慢なんだね」

 わたしはすかさず口を挟んだ。口にせざるを得なかった。
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