夢はダイヤモンドを駆け巡る

第3話

 
 ブオン。


 公園の生垣の向こう側から聞こえて来たその音に、わたしははたと歩む足を(それからアイスを舐める舌を)止めた。

 今何か、聞こえたような気がする。一体何の音なのだろう。

 じっと立ち止まって、公園の中の音に聴覚を集中させる。



 ブオン。



 得体の知れないその音に、わたしは固まる。

……もしや、これこそ今話題の不審者とやらではないのだろうか? だとすれば、一刻も早く家へ駆け込むべきではないだろうか。

 わたしはすっかり花も散り終え緑の葉の茂るようになった桜の樹木に身を隠し、そっと公園の中を伺う。



 すると、何ということだろう。わたしの目に飛び込んできたのは猟奇的といって良い光景だった。




 公園の茂みの向こう側には長身でがっしりした体形の人物(おそらく男)が、キャップを深めに被って顔が見えないようにし、手に凶器になりうる長い棒を持ち、股を大きく開いて仁王立ちしているところだった。さらには、棒を持った腕を上にあげて――これは、きっと、誰かを殴る所であるに違いない!

 ああ、さっき聞こえて来たブオン、という音は、人を棒で殴る音だったに違いあるまい!

 この平和な町で、まさかこんな不穏で血なまぐさい事件が起こる日が来るとは、考えたこともなかったのに。


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