夢はダイヤモンドを駆け巡る
第六章 星野かおるは夢を見る
第1話
なかなかの気まずい雰囲気に居た堪れなくなったわたしたちはそれからどちらからということもなく公園を立ち去った。
謝ったほうがいいのか、とはいえわたしの何がそこまで松本くんの機嫌を損ねることになったのかよく理解できていないのに安易に謝罪するわけにもいかず、わたしは黙って帰路についた。
そこから就寝までの記憶が定かではない。
しかし、そこでわたしが「これは夢だな」と思ったのだから、きっといつの間にかお風呂に入ってパジャマに着替えて寝床についていたのだろう。
変な夢だった。
わたしは夢の中で、どういうわけか、松本くんになっていた。姿かたちがまず松本くんなのだ。高い背に、焼けた肌、がっしりとした体躯。
夢の中で松本くんになったわたしは、階段を上っていた。長い長い螺旋階段で、何段か上ると段の色が赤や黄色や青に変わった。
上り切った先には、テストが待っていた。A4サイズの紙が何枚も重なり、机の上に置かれている。机はひとつしかなく、どういうことか受験者はわたししかいないようだった。
チャイムが鳴る。テスト開始の合図だ。
わたしは問題用紙を表に返し、問題を通読する。大嫌いな数学だ。
だけど、すらすらと解ける。どうしてこんなに解けるのだろう、と思ってから、ああわたしは今は松本くんなのだったと思い出す。頭脳は松本くんのものそのものだった。
しかし、三問ほど解き終えてから、はたと鉛筆が止まる。問題はまだまだあるのに、鉛筆が動かない。どうして動かないの、これじゃ赤点になっちゃうじゃないの――と思うが、どうしても手が動かない。
下の方から、大勢の男の子の声が聞こえる。どうしてもそちらへと松本くんは気がそれてしまうらしい。
鉛筆を置き、席を立つと、さっきまで上っていた階段の下が見えた。そこでは複数の少年たちがある者はグローブを手に、ある者はバットを手にし、和気あいあいと野球の練習に取り組んでいる。
わたしも下に行こう――そう思い、階段を降りようと足を踏み出したその瞬間、強い風が吹き、さっきまで目の前にあった螺旋階段が崩れ落ち、片足だけさしだしていた松本くんはまっさかさまに地上へ落っこちていった――。
◇◇◇
謝ったほうがいいのか、とはいえわたしの何がそこまで松本くんの機嫌を損ねることになったのかよく理解できていないのに安易に謝罪するわけにもいかず、わたしは黙って帰路についた。
そこから就寝までの記憶が定かではない。
しかし、そこでわたしが「これは夢だな」と思ったのだから、きっといつの間にかお風呂に入ってパジャマに着替えて寝床についていたのだろう。
変な夢だった。
わたしは夢の中で、どういうわけか、松本くんになっていた。姿かたちがまず松本くんなのだ。高い背に、焼けた肌、がっしりとした体躯。
夢の中で松本くんになったわたしは、階段を上っていた。長い長い螺旋階段で、何段か上ると段の色が赤や黄色や青に変わった。
上り切った先には、テストが待っていた。A4サイズの紙が何枚も重なり、机の上に置かれている。机はひとつしかなく、どういうことか受験者はわたししかいないようだった。
チャイムが鳴る。テスト開始の合図だ。
わたしは問題用紙を表に返し、問題を通読する。大嫌いな数学だ。
だけど、すらすらと解ける。どうしてこんなに解けるのだろう、と思ってから、ああわたしは今は松本くんなのだったと思い出す。頭脳は松本くんのものそのものだった。
しかし、三問ほど解き終えてから、はたと鉛筆が止まる。問題はまだまだあるのに、鉛筆が動かない。どうして動かないの、これじゃ赤点になっちゃうじゃないの――と思うが、どうしても手が動かない。
下の方から、大勢の男の子の声が聞こえる。どうしてもそちらへと松本くんは気がそれてしまうらしい。
鉛筆を置き、席を立つと、さっきまで上っていた階段の下が見えた。そこでは複数の少年たちがある者はグローブを手に、ある者はバットを手にし、和気あいあいと野球の練習に取り組んでいる。
わたしも下に行こう――そう思い、階段を降りようと足を踏み出したその瞬間、強い風が吹き、さっきまで目の前にあった螺旋階段が崩れ落ち、片足だけさしだしていた松本くんはまっさかさまに地上へ落っこちていった――。
◇◇◇