夢はダイヤモンドを駆け巡る

第3話

 それから小神は近くにある瀟洒な喫茶店にわたし誘ったのだが、コーヒーも紅茶も苦手だとわたしが正直に打ち明けたところ、「子供ですね」の余計なひと言と共に行き先をファミリー・レストランに変更してくれた。ドリンクバーでも注文してオレンジジュースやコーラを飲めということらしい。

 土曜日の午前十一時半という、ぎりぎり席を確保できる時間に到着した我々は窓際席に腰を下ろした。

 大人しくわたしはドリンクバーでオレンジジュースを飲むことにした。自分の腰ほどの背丈の子供に入り混じってドリンクサーバーの列に並んでいると、少々恥ずかしい気がしないでもない。

 店内を自由に駆けまわる幼稚園児たちにぶつからないように気をつけながら席に戻ると、小神はコーヒーをブラックで飲んでいるところだった。

 たかだかファミレスの安いコーヒーであるのにも関わらず、まるで老舗の珈琲店で挽きたてのコーヒーを口にしているかのような満ち足りた表情をしている。

 香りを楽しみ、その余韻を舌全体で味わう。店内にかかる古いジャズの名演奏に耳を傾けながら、ペーパーバック片手に充実したひと時を過ごす

――そんな古い映画の一コマのような光景を思い起こさせる(実際に身を置いているのが、幼稚園児たちがそこらじゅうを走り回り、それを放置している若い母親たちの甲高い世間話が響くファミリー・レストランであったとしても)。

 普段どんな生活をしているのだろう。

 あまり小神個人のプロフィールに興味はわかないけれど、食生活のこととなるとわずかながらではあるが知りたくなる。

 すました表情でカップを静かにソーサーに置くと、おもむろに小神が口を開いた。


「こうして学食以外の場所で対面しているとまるでデートの――」

「ようではありませんよ、小神さん。言っておきますけど」


「おや、意識過剰ですね」

 小神の小声は無視した。というか、あまりにも小さい声だったので、園児たちの猿の如き嬌声によってほとんど掻き消されていた。

 こんなシチュエーションでよくも「デート」という単語が出てくるものだ。本当はデートなんてしたこともないのだろう。もちろん、興味ないけれど。



「星野さん、一応言っておきますが、私はこれでもファミリー・レストラン以外の場所で女性とデートしたことくらいありますからね」
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