夢はダイヤモンドを駆け巡る

第4話

 唐突な要求に、わたしはストローを弄る手を止めた。なんというか……それはわたしの予想だにしない不意な要求だった。

 今日見た夢とは、すなわち松本くんに自分がなったかのような錯覚を覚えた、あの夢。

 夢の中でわたしはそれを「夢だ」とはっきり自覚していた……これって確か「明晰夢」っていうんだっけ? いつかテレビで聞いたことがある。

 その内容を小神に伝えるのは何だか恥ずかしかった。まずわたしが松本くんになっていたなんて、まるでわたしが松本くんのことを過剰に意識するあまり恋に落ちてしまっているかのようではないか

――と思ってから、そういえばそもそも松本くんを意識するようになったそもそもの原因は小神の忠言ではないか、と思い出す。

「……もしも、嫌だといったら?」

 逡巡ののち出したわたしの返答に、小神はこともなげにこう返してきた。

「もしも私があなたにどれでも好きなパフェを奢ると言ったら? それもいくつ頼んでも構わない、と」

「教えます!」

 即答。

 わたしは甘い物には目がないのだ。

 それからわたしは躊躇なく左手でメニュー開き、同時に右手で店員呼び出しベルを鳴らし、好みのいちご&バナナパフェ、チョコレート&バニラ&抹茶パフェ、それから正体不明の和風きのこ&ハワイアン・ピザ風味マーマレードパフェ(柿の種入り)なるものを注文した。

「三番目に星野さんが選んだパフェは、私なら絶対に選びませんね。ナンセンスです。ハワイアン・ピザとは一体どのような食べ物なのでしょうか。どうしてパフェに柿の種を入れるのですか」

「小神さん、何事も挑戦ですよ、挑戦。わたし、色々な斬新な味のスイーツを食べるのが趣味だから」

「というと、あなたは『新商品チェックは欠かさない』主義者なのですか」

「はい、そうですよ。何か悪いですか?」

 わたしはメニューをテーブル脇のメニュー立てに片づけながら、先輩相手に盾突く。正直、こんな趣味小神には絶対に馬鹿にされるとさすがのわたしにもわかっていたからだ。

 どうせ、「何の生産性もない趣味ですね」などと相変わらずの無表情+毒舌でかわされると思っていた。

 ところが。
< 45 / 144 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop