夢はダイヤモンドを駆け巡る
第十章 手の中にあるもの

第1話

 やはりそこは野球場だった。

 とはいえ、今日わたしたちがデーゲームを観戦したプロ球団が使用している球場ではない。

 わたしたちの高校のグラウンド。

 フェンスの向こうには見慣れた風景が広がっている。

 わたしはベンチにいた。グランドのフェンス際の木製のベンチだった。キャッチャーから見て右斜め後ろといったところだ。

 キャッチャーは松本くんだった。……松本くん? 彼ってキャッチャーだったっけ? と思い、慌ててピッチャーマウンドに目をやる。

 そこにいたのも、松本くんだった。

 奇妙さを覚え、ファースト、セカンド、ショート、サード……とぐるりと見まわして、卒倒しそうになる。

 全ポジションを、松本くんが守っている。九人の松本くんたちが、わたしの前にいたのだった。夢の中とはいえ、わたしはぞっとした。狂気じみたものを感じないわけにはいかなかったのだ。

 ピッチャーの松本くんが、一球を放った。バッターはそれを空ぶる。バッターはわたしに背を向けているため、顔は見えない。けれど、後ろ姿の雰囲気からそれもまた松本くんなのだろうということは見当がついた。

 松本大輔は、松本大輔と戦っているのだ。松本大輔だけを見方にして。

 ピッチャーが二球目を投げた。今度はバットの音が響いた。

 バッターから見て上空へと白球は高く上がる。レフトの松本くんがそれを難なくキャッチする。ピッチャーの松本くんは満足そうな笑みを浮かべていた。

「さすが松本大輔だな」

 男性の声に、わたしは振り向き、それから小さく悲鳴を上げる。

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