夢はダイヤモンドを駆け巡る

第3話

 他人の夢の中に入り込む能力、というけれど、それは一方では自分の意志では出入りできないことを意味する。いくらここから出ようとしたって無駄なことは分かっていた。

 松本くんの夢とわたしの夢とがつながり交差したこの世界から、どうすればわたしたちは出られるのだ?

 小神は冷静沈着な口ぶりでこう答えを提示した。

「『出る』ことなんてできません。先ほども言った通り、ここはあなたの夢の世界でもあるんです。あなたの夢のことはあなたが一番詳しいはずです」

 こう突き放されたって、わたしには解決案などわかるはずもなかった。

 こうなったらもう一度、原点に返るしかない。つまり、そもそもなぜ松本くんはわたしに憧れやうらやましさを抱いているのか。

 小神はこう言った。

 わたしが自分の意志のままに行動する自由さにあこがれたのだ、と――。

 でも考えてみよう。

 わたしは本当に自分の意志のままに行動しているか?

 誰の干渉も受けず、気ままに人生を謳歌しているか?

 いやそんなことはないはずだ。

 わたしはこれといったビジョンもなく、欲望のままに何ものかに体当たりしているだけの馬鹿な女子高校生に過ぎない。

 しかしその欲望だって本当に自分の中から出てきたものなのかと言われればそんなことはない。

 たとえば新商品のスイーツをチェックするのはそれが誰かが「おいしい!」とか「欲しい!」とかいうから、「わたしも食べなきゃ!」と思っているに過ぎない。

 塾に行かず、家庭教師もつけないのはただ勉強が面倒くさいからに過ぎない。

 部活をやらないのは、特に何の特技もやりたい競技もないからに過ぎない。

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