私の彼氏は真面目過ぎる!【完】
 翔馬の鞄にそっと腕を伸ばし、汗で湿った手でスマートフォンを取り出した。

 むろん臆病者なので、目線は何度も翔馬へ送っている。ちっとも起き上がる気配はないけれど。

 いつもバルで盗み見ていたパスコードを入力し、SNSアプリを起動する。



 一瞥して、怒りや驚きを通り越して、呆れの溜め息しか出てこなかった。

 トーク一覧にずらりと並ぶ、女性の名前。

 えりか、ゆな、しょうこ、あきほ、れい……それから、ひばり。

 私は簡単に内容を確認する。
 やっていることが犯罪であることは重々承知の上で。

 そこで分かったことは、いくつもある。

・翔馬には何かしらの原因で離婚した妻と一人の子供がいる。

・現在養育費の支払いが滞っていて、弁護士から何度も連絡が入っている。

・翔馬には定職がない。

・養育費の支払いのために複数の彼女にお金を借りている。

(おそらく、いずれは私からも金を借りるつもりだった。)


 まだ食事代と宿泊代程度を払う程度で済んでいたからいいものの……

 もしこの先、月に数万円も彼に払うことになっていたとしたら。

 想像するだけで、寒気がした。

「別れよう」

 眠る翔馬に、きっと私の声は届いていない。

 私はメモ書きを残して去る。

〈翔馬さん、さようなら。別れた奥さんとお子さんによろしく。〉



 あれ以来翔馬からの連絡はない。
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