残り香
この男がなんの目的で家に上がり込んでいようとかまわないのだ。
レイプされようと殺されようと問題ない。
それほどまでにこの頃の私は自暴自棄になっていた。

「しないの、通報?」

携帯の画面の時計は午前七時を表示している。
そろそろ出勤の準備をしなければいけない時間だが、どうでもよくなった。
私が布団の上に携帯を投げ捨て、男は怪訝そうな声を出した。

「……どうでもいい。
あなたの好きにしたらいいから」

ベッドの上で膝を抱えて丸くなる。
少しだけ間があいてベッドがぎしっと軋んだ。
視線だけそちらに向けると、男がベッドに座っている。

「一応、自己紹介しておくわ」

俯き、膝の上に両肘をついて指を組んだ男は、合コンの自己紹介くらいのノリで話しだした。

「俺はいわゆる死神って奴だ」

確かに、フードのついた長い黒マントをまとう男はそれっぽい。
< 2 / 25 >

この作品をシェア

pagetop