オオカミは淫らな仔羊に欲情する

  絢音は 「ふぅ~~っ」と息をつきながら初音の
  ベッドに腰掛けた。


「……それにしても、びっくりしたぁ……」

「鍵もかけずにあんな事するなんて、お母さんも
 とうとうハラ括ったのかしらね……」

「……アレって、やっぱ、***してたんだよね?
 姉ちゃんは知ってたんだぁ」

「あんただって最近うちのお母さんについて、ご近所で
 どんな噂が飛び交ってるか、知らなくはないでしょ」

「……うちのお母さんに限ってそんな事はないって、
 思ってた……」


  ”ハハハ ――”と、初音が乾いた笑い声を
  たてた時、玄関の方でドアが開かれた音がした。


「あ、終わったみたい」


  そう言いつつ窓辺に寄る。

  そして、ベッド上の絢音を手招き、

  カーテンの隙間から階下を見下ろし、
  

「あ~ぁ、これ見よがしに何やってんのかしら……」


  絢音も初音をマネて階下を見下ろし、
  上がりかけた声を自分で口を塞いで止めた。

  階下の玄関先では、母・祥子が部下の男性と
  熱烈なキスシーンを展開中……。


「うそ……母さんの相手って、笙野さんだったの……」


  
  祥子の部下・笙野隆は、絢音が中学受験を
  した時のカテキョで、この家からワンブロック先の
  アパートで弟さんと2人暮らしだ。

  カテキョだった、という繋がり以前に、
  笙野隆は高校・大学を通しずっと野球部の
  ポイントゲッター(エース)で、学績も良く。

  絢音の身近な憧れであった。




  いつものように母がテーブルへ置いていった
  お金で店屋物を出前し、夕食。

  昔は祥子の手作り料理を食べていたような
  気もするが、いつの間にかこんな食事が
  我が家 ”和泉家”の当たり前になっていた。


「……あんたって、あんなのがタイプなんだぁ」

「あんなの?」

「笙野隆」

「そんな言い方ないじゃん。素敵でしょ? 笙野さん。
 頭はいいし、優しいし、その上スポーツマン」

「頭が良くて・優しくて・スポーツマンなら、下半身
 ユルユルの女っタラしでもいいんだー」

「ソレって、笙野さんの事言ってんの?」

「いい事? 絢、将来男関係で泣きを見ない為にも
 これだけは覚えておきなさい。人は皆、裏と表が
 あるの。上っ面がいいやつほど自分の真の姿を
 隠す事に長けているものよ」

「……」


  この日は何だか無性にイラついて、夕食のあと
  散歩がてら馴染みの店に立ち寄った。
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