オオカミは淫らな仔羊に欲情する

  試合の結果は 10 - 3 で、相手チームの
  圧倒的勝利で終わった。
  
  監督からは 
  『コールドゲームにならなかっただけでも
   大したもんだ』
  等と、何とも締りのない慰めをかけられ、
  後輩たちが引き払った後の部室に残った
  キャプテン笙野他・3年生部員らは
  なんとも言えない虚無感に包まれ、意気消沈。

  今まで、特にコレといった自慢の戦績は挙げられ
  なかったが、引退試合くらいは! と、
  結構意気込んでいたのだ。


  キャプテンとして後輩達の健闘を称え、
  喝を入れてから帰路に着く。
  
  通学路の途中にある小さな公園に絢音が
  待っていて ――。
  
  
「―― あ、先に帰ってても良かったのに」

「あ、やっぱり、迷惑だった?」
 
「いいや、とんでもない……じゃ、帰ろっか」

「うん」


  2人(絢音と裕)は、並んで歩き出した。   
  
  
「あ、えっと……試合、残念だったね」

「ん、あぁ、まぁ、な ―― 最後くらいは、
 カッコよくキメて、ほら ”有終の美” ってやつ?
 飾りたかったけど、今のあいつらじゃアレが限界
 だったのかも知れない」
 
「そっかぁ……けど、皆んな頑張ったよ」
 
 
  こうやって、今日あった出来事とかの事を中心に
  話しながら数分歩いていると、先に和泉家に
  到着する。
  
  兄と2人暮らしのアパートはここから1キロほど先
  にある、府営団地だ。
  
  
  「じゃ、また明日学校で」と、手を振って別れる。
  
  いつもなら、そうなるハズだった。
  
  でも、今日は違った。
  
  歩を進めようとした絢音を裕が引き寄せ、
  抱きしめたのだ。
  
  突然の事で絢音はとっさに腕を思い切り突っ張らして
  裕と体をなるべく離した。
  
  
「……ごめん、しばらくこうしててくれ」

「でも、誰か来ちゃうよ」

「それでもいい」

「……どうしたの? 何か、変だよ、裕」

「……」


  裕の表情は、言いたい何かがあっても言い出せない
  といった感じで、辛そうに歪む。
  
  
「……ゆたか?」


  そんな辛さは語らずとも、肌の触れ合いや
  ちょっとした仕草からも十分感じ取れるもので。
  
  ましてや、兄の隆にカテキョをしてもらう以前から
  家族ぐるみの付き合いをしてきたから、
  裕が重大な何かを胸中に沈めかけていると
  分かった。      
  
     
「……話して? 私は何を聞いても驚かない」

「……本当に?」

「うん」

「……実は、俺、ゲイ、なんだ」

「えっ ―― (絶句)」


  その絢音の表情を見て、裕は堪らず吹き出した。
  
  
「プッ ―― もしかして、真に受けた?」

「あー、もうっ! 人が真剣に話してた時にっ」

「―― 出発、週明けになった」

「……??」

「……母さんがさ、ちょうど向こうの学校は
 9月が新学期だからいいタイミングだろうって」   
  
「……そう」

「って ―― たったそれだけ?」  
  
「じゃあ、大泣きして”行かないで”って縋れとでも?
 ……うちら、まだ、親の保護が必要な学生なんだから
 しょうがないじゃん。泣いたからって……」
 
 
  言っているうちに感情が昂ぶってきた絢音の瞳から
  大粒の涙がポロポロ溢れる ――。
< 6 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop