鬼畜な兄と従順な妹
「はいはい。では、後はよろしく、お兄さま。幸子ちゃん、また明日」

「はい、さようなら」

 神徳君は笑顔で言い、背中を向けて帰って行った。神徳君って優しいし、ちょっとユーモアもあって、素敵な男子だなあ。などと思っていたら、お兄ちゃんに手をギュッと握られた。

「一緒に帰ろうね?」

 なんて、お兄ちゃんは猫撫で声で言い、私達は廊下を歩き出した。いくら兄妹だからって、男子と手を繋いで歩くのは、とても恥ずかしかった。

 中庭に出て、体育館に差し掛かった所で、なぜかお兄ちゃんは立ち止まった。そして周りをキョロキョロ見たと思ったら、いきなり私の腕を引っ張って走り出した。

 お兄ちゃんに引かれて行った場所は、体育館の裏だった。そこは日陰で、ちょっとジメっとしている。

 私は体育館の壁を背にして立たされた。そして、お兄ちゃんは片手で私の腕を掴みつつ、もう一方の手は、私の頭越しに壁に着けた。

 これって、”壁ドン”じゃないかしら。前にテレビでヒロインがヒーローにされてるのを見た事はあるけど、自分がされたのはもちろん初めてだ。もっとも、相手がお兄ちゃんでは、そんなロマンチックなシーンではないのだけど。

 それにしても顔が近い。息が相手の顔に当たるほど、お兄ちゃんと私の顔は近かった。もし昨日みたいにキスされたら、今度も避ける余裕はないと思う。学校でそんな事、する訳はないのだけど。兄妹なんだし。
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