鬼畜な兄と従順な妹
 校舎に入り、お兄ちゃんに肩を抱かれながら保健室へ行ったら、あのお化粧は濃いめだけど美人の先生がドアに鍵を掛けてる所だった。確か名前は、春田美紗子先生だ。

「村山君、どうしたの?」

「幸子がちょっと…… でも、もうお帰りですよね?」

「そのつもりだったけど、大丈夫よ。中に入って?」

 春田先生は保健室のドアを開き、パチっと明かりを点けてくれた。中に入ると、薬品とかの、保健室独特の臭いがした。

「えっと、こっちに座って?」

 春田先生はシャッとカーテンを開け、丸椅子ではなくベッドを勧めてくれて、私はお兄ちゃんと並んで腰掛けた。

「まあ、こんなに腫れちゃって…… 何があったの?」

 春田先生は腰を落として私の顔を覗き込み、どちらにともなく聞いた。私は何て説明すれば……と思ったのだけど、

「階段から落ちた、ではダメですか?」

 お兄ちゃんがすぐにそう返事をした。

「そんなわけないけど、先ずは冷やさないとだわね」

 春田先生は手早くピンクのスプリングコートを脱ぐと、冷蔵庫を開けたりを始めた。そのキビキビした動作は、見ていて気持ちいいぐらいだった。

「はい、これを顔に当てて? 強く押さないようにね?」

 春田先生が渡してくれたのは、氷が入ったゴム製の袋を薄いタオルで巻いたもので、私よりも早くお兄ちゃんが受け取り、私の左の頬に当ててくれた。冷たくて、気持ちいい。

 ちなみにお兄ちゃんは右手で私の右肩を抱き、左手で氷を持ってくれている。つまり、お兄ちゃんと私は、隙間がないくらいにピッタリくっ付いていた。
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