鬼畜な兄と従順な妹
最後のデート ~幸子Side~
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 お兄ちゃんと私は電車に乗り、4人掛けのボックスシートに並んで座った。電車は空いていて、向かいの席には誰もいない。

「幸子。後悔してないか?」

「え? 何を?」

 今からしよとしている事かな、と思ったのだけど……

「神徳を振った事さ。あんないい男を振るなんて、おまえも相当だと思うぞ」

 そんな事だった。

「”相当”何よ?」

「え? 相当なバ……」

「あっ。いま、バカって言おうとしたよね? そうなんでしょ?」

「ま、まあな」

「じゃあ、わかった。直哉さんとやり直す」

「えっ? マジか? うそだろ?」

「うそよ。そんなに焦るくらいなら、最初から言わなきゃいいのに。お兄ちゃんの、バカ」

 私はそう言って、お兄ちゃんに抱き着いた。お兄ちゃんも、私をギュッと抱き締めてくれた。

「あ、そうだ!」

「何だよ、急に……」

「お兄ちゃんは麗子さんとやり直したら? あんな綺麗でお金持ちの女の子、もったいなくない?」

「ん……それもそうだな。考えてみるかな」

 私はお返しのつもりで、ふざけて言っただけなのに、お兄ちゃんは本気で考え込む仕種をした。私は悲しくなって、涙が出てきちゃった。

「幸子。俺、やっぱりさ……」

 お兄ちゃんは低い声でそう言った。やっぱり麗子さんとやり直すって、言うんだと思う。

「幸子しか目に入らない」

「え?」

「なに泣いてんだよ。おまえって、意外とバカなんだな?」

「もう……」

 お兄ちゃんは指で私の涙を拭ってくれて、優しくキスしてくれた。

 私は湖までの旅を、目一杯楽しもうと思った。お兄ちゃんとの、最後のデートになるはずだから。
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