異世界の巫女姫は、提督さんの『偽』婚約者!?
(どーも!呼んだのはキミ?人間と喋るなんて初めてだよ!!)

(あ!来てくれたの!?そう、呼んだのは私!あの、早速だけど助けて!寒くて死にそうなのっ!)

と、ぶるぶると震えながら訴える。
姿からして、コブダイだと思われる彼?は私の周りをぐるぐる泳ぎながら呑気に言った。

(助けてあげたいけど、この辺りにはほんとに何にも無いんだよね。人間は大体船の上にしかいないし……)

(そ、そうなの?とりあえず、水から出たいんだけど!?近くに島とかない?)

(島!?島だって!?おかしな子だね。そんなもの、もうこの世界に残っていないよ)

(…………意味がわからないわ)

(あのね、陸地はないんだ。あるのは海だけ。キミの仲間は大きな船を作って海の上で暮らしてるよ)

コブダイの話は全く理解不能だった。
陸地がなく、人は船で暮らしてる?
一体何がどうなったらそんなことになるのか……。
その話が本当なら、ここは日本ではないのだろうか?
いや、日本じゃないどころか確実に終末来てるよね!?
私が寒さに耐えながら考えていると、コブダイは何かに反応してピクッと体を震わせ、水の中に消えてからまた浮上した。

(大きな船が来る!良かったね、助かるかもしれないよ。キミは目立つ服を着ているからきっと回収してもらえるさ)

(え?船が来るの?そう……何にも見えないけど……)

目を凝らして周囲を確認するが、それらしきものは何もなく、更に濃くなってきた霧が不気味に周囲を取り巻いているだけだった。

(この辺りは特に霧が発生しやすくて視界が悪いんだ……でもすぐ近くにいる。それじゃあ、ボクは帰るよ。海に愛された不思議な子、気をつけて行きな)

(あっ、ありがとう!)

コブダイは海中に沈んでいき、今度は完全に姿を消した。
一人になった私はキョロキョロと辺りを見回し、近くにいるという船を探す。
大きな船なら、それなりの音がしそうなものだけど相変わらず海は波の音しか聞こえない。
それに、この霧ではいくら目立つ服を着ているといっても目視は難しいのではなかろうか……。
救助してもらえるかもしれない、という希望的観測で奮い起こした残り少ない力が、もしかしたら何をしても無駄かもしれない……という絶望感で崩れ去っていく。
もう、考える力も動く力も残っていない。
ダメ………もう…………限界。

掴まっていた鉄板に突っ伏し、波の揺らぎに身を任せ、私は大海原に漂う。
そして、真っ暗になった世界に再び暖かく明るい光が灯されるのは意識を失ってから暫く経った頃だった。
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