異世界の巫女姫は、提督さんの『偽』婚約者!?
提督さんの気持ち
帰り道は当然、一言の会話もない。
いつもなら、夕飯の話や、夕飯の話、また夕飯の話………あれ?ご飯の話しかしていない!
だけど、それすらも今日はなかった。
前を早足で歩く提督さんを、私は必死で追った。
行き交う人が、私達の前からさっと脇にそれる。
ああ、きっとごつい般若の面を被ってる……。
というのは、住民の皆様の恐怖の表情でわかった。

普段の倍のスピードで帰ると、提督さんはさっとシャワー室に消えた。
それからすぐに食堂の人が夕飯を運んで来てくれてテーブルに置く。
その湯気立つご飯を前に、私は腕組みをして俯いた。
……お腹が空いているからじゃないよ。
いくら食意地が張ってるからといって、そこまで私も空気を読まないわけではない!
俯いて考えるわけ、それは『提督さんはどうしてそこまですずなお嬢様に入れ込むのか』ということ。
いくら大事な上司の娘だからって、あんな綺麗で一途な(少し怖いけど)幼なじみよりビッチを取るなんて!
言っちゃ悪いけど、趣味が悪いにも程がある。
私が男だったら、すずなお嬢様みたいなタイプは論外だ(この際、同じ顔だってことは忘れて?)
まぁまれに?そういうのが好きな変な男はいるかもしれないよ?
でも……提督さんは、真面目だしそうは見えない。

私があーでもないこーでもないと、考えていると、シャワーを浴び終わった提督さんが、まだ濡れた髪のまま部屋に現れた。
カーキ色の綿パンを履き、無造作に白シャツを羽織って、私の前の椅子に座る。
まだ、般若かな??
と、様子を伺う。
提督さんは……もう般若じゃなかった。
シャワーで憑き物が落ちたみたいに、すっきりとした顔をしている。
一体、この短時間で何が!?
びっくり顔の私の前で、提督さんは濡れた髪をワシャワシャとタオルで拭きながらふふっと笑った。
は?何がおかしいの??
今、ケンカしてたんですが、私達!!
きっとその思いが顔に出たんだろう。
ぷぅと赤い顔をして頬を膨らませた私に提督さんは見るからに慌て、そして、取り繕うように言った。
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