異世界の巫女姫は、提督さんの『偽』婚約者!?
提督さんも少尉さんも、いつもよりゆっくりめで歩いてくれるおかけで、裾がスースーするのもあまり気にならない。
あれ?
でも、なんかこれ知ってる感じがする。
………………そうか!!島だ!
島にいた時に、奏太がいつも手を引いてくれて………。
なんだろう、最近よく奏太を思い出す。
島から出れて、せいせいしてるはずなのにこんなのどうかしてる。
奏太だって向こうでやっと島から出れることに喜んでるよ、絶対。
ここにきて暫く経つけど、今頃ホームシックかな?

「どうした?」

フロアを繋ぐ階段で止まり、提督さんは私を覗き込んでいた。
心配そうな顔をして。

「い、いえ、別に。ちょっと緊張?かな?」

「…………………………」

私がそう言うと、提督さんは黙り込み何やら少尉さんに小声で指示を出した。
何て言ったのかは聞こえなかった。
だけどそのすぐ後、少尉さんが先に歩いて行ったので何となく想像はつく。

「あの、どうしたんですか?早く行かないと……」

「そんな顔でどこにも行かせられない」

え、そんな酷い顔してましたか?

「………そんな泣きそうな顔で……」

誰が通るかもわからない階段の真ん中で、提督さんはグッと私を抱き締めた。
少しの隙間も許さない、というようにキツくキツく。

「泣きそうだなんて……あはは、まさか……」

「寂しい時には言え。オレはこうやって抱き締めることしか出来ないが……君にそんな顔をさせたくない。誰かを思い泣く君を見たくない」

「誰かを思って………?」

誰かって。まさか、奏太??
いや、それは…………。

「全てを忘れろとは言わない。だが………オレがいることを忘れないで欲しい」

提督さんはいつか見たような、儚い笑顔で言った。
それは、初めて会った夢の中。
儚く物悲しい顔の………。
あの時の顔も、今の心配する顔も、それは全部すずなお嬢様に向けられたもの。
提督さん、私はすずなお嬢様のそっくりさんであなたの想う人とは違うよ?
だから、もう、そんなに優しくしないで。

そんな思いを口にも出せず、私はニッコリ微笑み「はい」と答えた。
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