SHALIMAR -愛の殿堂-


彼女がふっと息を吐くのが分かった。


またも濃厚なバニラの香りが漂ってくる。


「…あの、それ…その香り…何ですか?」


俺は思い切って聞いてみた。


立ち入り過ぎかなと思ったけれど、このチャンスを逃したら二度と喋れないかもしれないし。


だけど彼女はちっとも気を悪くした様子ではなく、




「ああ、これ?葉巻」




と気軽に答えてくれた。


あー、葉巻かぁ……なるほど~




って、葉巻!?




ってあのヤクザの親分とかが吸ってるあのふっとい葉巻!?


い、イメージが……↓↓


何て考えていると、


くすくすっ


またもくするぐような低い笑い声が聞こえてきた。


「あんな立派なものじゃないよ。私のは安物。ほら、細いでしょう?」


彼女はベランダからちょっと白い手を出すと、俺に見せてくれた。


赤い爪に彩られた白い指に挟まれていたのは、確かに普通のタバコの太さだった。


色は茶色いけど。


その先から嗅いだ覚えのある濃厚なバニラの香り。


葉巻……か。お洒落だな。


俺とは別世界。




敷居がまたも一段上がった。


「…い、いつもそこでそれを吸ってるんですか?」


「………」


俺の問いに彼女は黙りこんだ。





しまった!いつも気にしてることがバレバレだ!!





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