SHALIMAR -愛の殿堂-


その後駅に到着して電車に乗って、俺たちの会話は途切れた。


全部を話し終えたからか、彼女の横顔は妙にすっきりしているように見えるし、でも、何かを諦めたような表情にも見えた。


電車を降りて、俺たちのマンションまでたどり着くまで、俺たちは言葉を交わすことなく


何かをしたい、と思っていたのに結局何もできず、彼女の話を聞くことしかできなかった。


お互いの部屋の前まで来て、何となくそれぞれ部屋の前で立ち止まった。


折りたたんだ傘の軸から雨の水滴が廊下の地面に垂れて濃いグレー色に変色している。それを眺めながら、一週間前と同じだ、と思った。


あのとき俺は彼女の部屋の前で元カレっぽい男を目撃してしまって、


何もできなかった。


いや、何もしなかった―――だ。


このまま、俺が何か言ったりしたりしなかったらきっと一週間前と同じ……いや、それ以上にもうずっとずっと何かが変わることなんてない、


そう思った。


でも何をどうすればいいのか、分からなかった。


お互い鍵を出すこともせず、ただじっと部屋の扉の前に佇んで


でも、互いの部屋に入ってしまえばきっともう本当に終わってしまう。気だけが焦った。


彼女がいつも言う「続き」の話を、もうこの先永遠に聞けない気がするのに、それを変える術を俺は持ち合わせていない。


何か……何か言わなきゃ。


と考えてると





「ね、うちに来て飲みなおさない?さっきはジュースだったから物足りないでしょ?


うちだったら寝ちゃっても大丈夫だし」




そう言われたとき、俺は目を開いた。


「続きは私の部屋で」


との申し出に、俺はまばたきすらすることができずシェヘラザードを見つめた。



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