BLACK TRAP ~あの月に誓った日~

「藤川……先輩」

小さく名を呼ぶと夕陽を浴びた彼が振り返った。


生徒会長の、藤川皇世(こうせい)

近所に住む一つ年上の先輩だ。


綺麗な薄茶色をした眉をひそめ、こちらへ近寄ってくる。


「あのさ。野郎に囲まれてたんだから、もっとこう、か弱く怯えて、涙目で『助けて……』とかないのお前」


『助けて』の所で大げさに声色を変えて藤川が悪態をつく。


「は? 何それ、私に演技しろってこと?」

「それだったらまだ、助けがいがあるよなって話」


眉をしかめつつ、藤川は座り込んだままの私を引き上げる。


「別にあなたを呼んだ覚えはないし」

「……全く。お前なら助ける必要もないな。自力で逃げられそうだ」

「うるさい……」


いつものように冷たくあしらいかけ、ふと思い出す。


「でも、ありがとう。実は危なかったの」

「っ、何かされたのか?」


藤川は顔色を変えて私を見下ろし、制服に視線を走らせる。
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