我が儘社長と不器用な2回目の恋を



 「………どうした?テニスしたくないのか?」
 「ううん。したいけど………。」
 「じゃあ、どうして黙ってるんだ。」
 「……私の洋服とか靴とか、残してあるの?」


 斎と夕映が別れたのは、大学を卒業する間際の頃だ。それから、時間が大分経っている。
 それなのに、彼の部屋に自分のものが置いてある。その意味を考えてしまい、驚きと戸惑いがあった。

 彼は、自分の事を嫌いになっていなかったのだろうか。
 今まで、ずっと。



 夕映の問いかけを聞いた斎は、少しも顔色を変えずに、夕映を見つけた。
 そして、当然の事のようにあっさりと理由を教えてくれた。


 「おまえが勝手に俺から離れただけで、俺はお前から離れたいとは思ってなかったからな。」
 「斎………。」
 「それに、あれから俺も一人暮らしをしてたんだ。お前の荷物は実家に置いたままだっただけだ。」
 「………そう。」
 「ほら、早く行くぞ。」


 斎はそう言うと、夕映の腕を掴んでから、ずかずかと歩き始める。
 その手がいつもより熱くなっており、彼が少し照れているのがわかった。


 斎が久しぶりに会ってすぐに夕映にやり直したいと言ってきた理由。
 それは、本当にただの遊びではないのかもしれない。
 夕映は、そう感じてしまう。


 それが、妙に恥ずかしく、そして嬉しくて。
 繋いだ手から、自分の感情が伝わってしまいそうで、夕映は下を向きながら彼の後ろを歩いたのだった。




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