我が儘社長と不器用な2回目の恋を
 



 ここで1時間汗を流すのが、夕映の週に1度の楽しみだった。


 「水無瀬さん、こんばんは。」


 コーチが手を上げて呼んでいたので、そちらに向かって小走りで近寄った。


 「松コーチ、よろしくお願いいたします。……今日は私だけですか?」
 「今日は、試験前だったり、体調不良とかで水無瀬さんだけなんですよ。」
 「わぁー寂しいけど、コーチを独占して試合出来るのは嬉しいです。」
 「水無瀬さん、強いからなー……お手柔らかに。」


 松コーチは、笑いながらそう言うと、「準備体操をしましょうか。」と言って、2人で軽く体を動かした。
 松コーチは、夕映より若い男性の先生だった。体育大学を卒業して、プロとして活躍しながらも、このジムで働いているのだ。
 背が高く、日焼けした肌、そして優しい顔つきで、とてもカッコいい人だった。松コーチに指導してほしくて、プロコースを希望する人も多いそうだ。

 レッスンがスタートする時、夕映の視界の脇に何かが入り込んできた。
 他のコートに誰かが入ったようだった。


 「あ、今日はユースの子ども達の指導の日ですね。」
 「………そうですね。九条コーチもテニス強いからね。」
 「そう、ですね。」


 2人が見つめる目線の先。
 少し離れたらコートに、数名の男子学生と1人のコーチが入ってきた。

 あちらも今から練習なのか準備体操や軽めのランニングをしていた。



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