ゼフィルス、結婚は嫌よ

ほう、新しい女性の会!

 口先だけではなく惑香と話ができていかにも嬉しそうな様子の義男が「ええ、そうなんです。墓参りです。ぼくの父の親友だった方で、その父の命の恩人でもあった方なんです。特攻で戦死されました」と御霊のプロフィールを口にする。「まあ、特攻隊員だった方ですか?」と惑香。「はい。なんと22才の若さで…」と答えて、そのあと惑香のさらなる質問を待つ義男だったが、単にうなずくだけなのでは急いで話を変えた。「ま、まあ、古い話は止して、それにぼくのことなんか話すのは止しましょう。それよりぜひ、おうかがいしたいのは‘あなた’のことです」と再び正夢の喜びの中へと入って行くようだ。「あなたがいつもいっしょにいらっしゃる他の4人の方々は…あなたも含めれば5人ですか、何かサークルのようなことをやっていらっしゃるのですか?」と興味深々に訊く。「え?え、ええ…そう見えます?」と惑香が逆に聞くのに「はい。拝見するに一般の女性たちとは何か、どこかが違うような雰囲気を皆さんがお持ちです。いったい何をやってらっしゃるのか、ぜひおうかがいしたい」と微笑みながらでも詰問風に義男が訊く。蛇足するがこの小説の語り手としても、ゼフィルスの会の説明がはぶけて、この義男の質問は助かるところではある。「まあ。わたしたちにおっしゃるような、そんな雰囲気がありますかねえ」と惑香は笑って見せたあとで「そうですねえ…わたしたち5人の規約は云えませんが、実はゼフィルスの会と云ってある著名な方がつくられた会があるのです。邦訳すれば‘新しい女性の会’」「ほう、新しい女性!」鸚鵡返しに強く云って義男が上体を乗り出してくる。
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