世界最後の朝を君と
3 先輩は歳下
それは、店長が私の目の前に現れて、1週間くらい経った時だった。

ホームルームが終わり、私は荷物を滝のごとくバッグに流し込んでいた。

「お前、何そんなに急いでんの?」

店長はいつものワクワク顔で私の顔を覗き込むが、私は「話しかけるな」と目で訴える。

そう。

私は物凄く急いでいた。

ここで、帰宅部かつ無趣味の私が何をそんなに急ぐ事があるのか、と疑問に思った人もいるだろう。

確かに、部活には入ってないし、趣味も特に無い。

だが、今日だけは、どうしても外せない予定があった。

荷物を全て詰め込み、バッグのチャックを閉じようとするが、お昼に食べたお菓子の袋がかさばり、閉じられない。

どれだけ力を入れても、お菓子の袋だけが、収まりきらない。

このポテチ野郎…! 

私は恨みを込め、思い切りチャックを引っ張る。

「立花っち、今から暇?」

背後から、聞き慣れた陽気な声が聞こえてくる。

恐らく山田くんだろう。

「ごめんなさい! ちょっと今急いでるから明日ね!」

私は振り向きもせずにそう答える。

しかし当のバッグは、相変わらず閉まらない。

どうしてポテチなんてかさばる物を買ってしまったのか…。

私は「照り焼きマヨ味って絶対美味しいじゃん!」と衝動買いした朝の自分を恨む。

こうなったら最終手段だ。背に腹は替えられない。

私はポテチの袋を取り出す。

と、その時。

「さーきっ!」

いい香りと共に誰かに背後から抱きしめられた。

ナイスタイミン!!!

私は心の中でそう叫び、振り返る。

そこにいたのは勿論、みな美だ。

私は「ねね、駅前の新しく出来たクレープ屋さん行こーよ」と子犬の様に目を輝かせるみな美の胸に、ポテチの袋を押し付けた。

「?」

みな美はポテチの袋を手に取り、首を傾げる。 

「それあげる! クレープは明日ね!」

私はそう言い残し、バッグを持つと、ダッシュで教室を出た。

「えっ、ちょっと! どういう事!?」

みな美の声が聞こえるが、構わず走る。

ごめんみな美! 今日だけは許して!

教室に取り残されたみな美は、ポテチの袋をじっと見つめ、一人呟く。

「私、のり塩の方が好きなんだけどなぁ」
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