クールな御曹司と愛され新妻契約
そう思うのに、心の中では好きという感情が淡く切なく膨らんでいくばかり。

夕食の後片付けを済まし、彼が呼んでくれたタクシーに乗って帰宅してからも、瞼の裏に焼き付いてしまったあの光景――冷泉様に抱きしめられてキスをされた時の記憶のせいで、目を瞑る度に胸がきゅーっと痛んでしまう。

あのキスに、どのような意味が含まれていたとしても……密かに想いを寄せていた相手に唇を奪われて、平静でいられる訳がなかった。



そんな眠れぬ夜を過ごした、祝日明けの火曜日。
寝不足の顔をメイクで整え、浮き立つ感情をなんとか抑えながら出社して、先輩と共に本日の担当先へ向かう。

「おはようございます。EmilyMaidsから来ました、ハウスキーパーの夏井です」

「おはようございます。同じくハウスキーパーの三並です」

世田谷区の高級住宅街の一角に、庭師によく手入れをされた壮麗な日本庭園が広がっている。
江戸時代から代々子孫に受け継がれているという土地にそびえるこちらの豪邸こそ、冷泉様のご実家だ。

「二人とも、おはよう。さあ、上がってちょうだい」
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