過去の精算

「あら? 関係ない人がどうしてここに居るのかしら?
それも、変なオバさんまで連れて来て?」

事務長も、何故ママがこの場にいるのか怪訝な顔をしている。

私だって、あんたの顔なんか見たく無いわよ!
お世話になったママの頼みだから来たの!
大好きな町の人達の為に来たの!
そうじゃなきゃ、こんなとこ来やし無い!

「弁護士まで同席して、なんの話かしら?」

院長夫人の言葉に、弁護士の先生は厳しい顔をして言う。

「病院のお金をお二人が横領しておられると聞き、院長先生より告訴する手続きに入りたいとのご相談を頂きましたので、伺いました。
ですが事が事ですし、病院の信用問題にも関わりますので、先ずはお二人からお話を伺った上で、手続きを取りたいと思います」

「横領ってなんの話かしら?
私が何かした証拠でも有りまして?」

当然、証拠など無いと思っている二人は、軽視して薄ら笑いすら浮かべてる。

「経営が苦しいからって、証拠もなく憶測だけで私を悪者扱いするのやめて頂けます?
反対に私が侮辱罪で訴えますわよ!?
妻である私をありもしない罪で訴えようとした罪は重いわよ、あなた!!」

院長夫人は鬼の様に顔を歪め、院長に詰め寄った。そして、妻を疑う様な夫とは暮らせないと、離婚を要求し、それに伴う慰謝料を請求すると言った。

「と言っても、あなたにお金があるとも思いませんから、この土地の権利書を渡していただけます?」

「お袋! 何考えてる!?
いい加減にしろよ!?
この病院は町の人達の病院なんだ!
絶対、お袋の好きにはさせない!」

彼は母親を正そうとするが、院長夫人には息子の想いは届かない様だ。

「なに言ってるの?
和臣も分かってるでしょ?
私はこの土地が欲しいの!
この土地を売って、私はもっと自由に楽しく生きるのよ!」

土地が欲しい?
病院が欲しいじゃなくて?

「今なら、この土地高く買ってくれるのよ?
今を逃したら、どれだけ損するか?
和臣だって分かるでしょ?
人生楽しく生きなきゃ!」

院長夫人の言い草に腹が立ち、私は拳を握っていた。

「院長夫人は…あなたはこの病院を無くすつもりですか?」

「なによ!
あなたには関係ない事でしょう?」

「1つ聞かせて下さい。
あなたは、前谷君にこの病院を継がせたかったんじゃ、無いんですか?」

「初めはそうだったわよ?
誰の子か分からない子を妊娠して、親や兄弟からは厄介者扱いされ、世間の目があるからと、好きでもない人と結婚させられて災厄だった。
でも、和臣を医者にさえすれば、この病院は私の物になるって思って我慢したよの!
和臣は私の期待に応えてくれた。
世界に名の通る外科医になってくれたのよ?
私の為に!」

貴方の為…?




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