過去の精算

半年前

かつて、私が恋心を抱き、学友としてライバル視していた、同級生である 前谷 和臣が、帰ってくると、院内…
いや、町中が噂に湧いた。

前谷 和臣は、この町唯一の病院である、前谷総合病院の一人息子である。
彼は、高校を卒業すると同時に海外へ留学し、医師になると、脳神経外科医として腕を磨き、いまや世界中の医師らから注目を浴びているらしい。
何度か、世界五大医学雑誌へ彼の論文が掲載され、とても高い評価を受けてるらしい。
その為、町中のみんなが、彼の帰りを今か今かと待ち望んでいるのだ。

一方の私(木村 未琴)は、高校まで外科医を目指していたが、夢叶わず、今は医療事務員として働いている。

この小さな町S町は、人口千人弱と小さな町で、小学校から中学校そして高校まで、ほとんどが腐れ縁の顔ぶれで、コンビニもお洒落なカフェもない、田舎と言える町。

そして、この町には似つかわしくない前谷総合病院が私の勤務先である。

『ねぇ聞いた?
今度、院長の息子が帰ってくるって?』

『聞いた、聞いた!留学してたんでしょ?
向こう(海外)で、脳外勉強してたらしいよ?
それでうちの病院にも、今度脳神経外科を新に設立するって!』

『まぁこの周辺には、うちもそうだけど、脳外科専門の医者居ないから、良かったよね?
でも、どんな人だろう? イケメンかな?』

『そう言えば、木村さんって地元だよね?
どんな人?』

普段、私になんか話しかけもしない人達が、彼の情報を少しでも引き出そうと、話しかけて来た。

「さぁ?
私、あまり交遊関係広くなかったし…
男の子との接点なんて全く無かったから…」

同僚らの興味本位の質問に、私は一切答える気は無かった。
少しでも答えたなら、今以上に面倒になると知っていたからだ。

『バカね?
木村さんに聞くだけむだでしょ?
それに、看護師のみんなが狙ってるわよ?
私達が先生に近付くなんてムリムリ!』

『それもそっか!アハハ』

私はもともとが地味で、就職した後も出来るだけ目立たない様、そして、面倒な交友関係を持たない様に生きてきた。




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