希望の夢路

失意

「どうして!どうして私の博人さんを傷つけたの?どうして?」
心愛が、俺を責める。
心愛は、ぺたんと地面に座り込んで泣きじゃくっている。
そんなにあいつのことが、好きなのかよ。
「あーあ、せっかくのスカートが汚れるだろ?」
「いいの。汚れたっていい。だって、博人さんに見てもらえないんだもん」
よっぽどあいつのことが好きだったんだな。悔しいけど、あいつには勝てないんだな。
いつから年上が好きになったんだよ。
「別に俺は…確かに心愛を譲れとは何回か言ったけど」
「別れろって言ったの?」
心愛が俺を睨むから、俺は悪者なんだなと悟る。
「まあ、言ったには言ったな」
「ひどい!なんで?なんでなの?ねえ、なんで?ねえ!!」
心愛はパニックになっている。
「どうしてなの?どうして!!」
俺を揺さぶる、心愛。
「そんなに好きなのかよ」
「好きよ、大好き!博人さん…会いたい…」
あいつには負けないと思っていた。
親父は印刷会社を経営してるし、権力といったらおかしいけど、それなりに経済力はある。俺だって働いてるし、ゆくゆくは親父の跡を継いで社長になる予定だ。でも、そんな俺には興味のない心愛。心愛は、博人を傷つけ苦しめたことを今猛烈に責めている。
「なんでなの…博人さんに恨みでもあるの?」
「ねえよ、そんなもん」
ないといえば、嘘になる。
大好きな心愛を、あいつに、博人に奪われたのは許せなかった。
でも、心愛からあいつを取ったらこんなに、こんなに壊れてしまうのか。
笑顔で楽しそうにして幸せそうに笑う心愛を、俺は奪ってしまったのか?
あいつといると、心愛はとても楽しそうに笑っていた。まるで、天国にでもいるかのような、幸せな顔。
俺といる時は、あんな顔しなかった。
心愛から大切なものを奪ったのは、間違いなく俺だ。時間がかかっても俺を見てくれるまでゆっくりと心愛の心を溶かそうと考えていたが、それは無理だとすぐにわかった。
それだけ、あいつのことが好きで仕方ないんだな。俺は、心愛を壊してしまったのかもしれない。
目の前にいる心愛は、泣いて泣いて涙が止まらずにいた。
どれだけ泣いても、涙は恐らく止まらないだろう。

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