希望の夢路
第6章 愛の真偽

クールな彼の意外な一面

「本当、よかったよ」
保乃果が言った。
「ごめんね、ほのちゃん。心配かけて」
心愛はベッドの中で、保乃果に向かって言った。
「ううん、いいの。でも、心愛ちゃんが倒れているのを見たときは、息が止まるかと思ったよ。一瞬にして時が止まったような感じでさ」
心愛は、保乃果の話に耳を傾けていた。
「信じられなかった。信じたくもなかった。心愛ちゃんが倒れてて頭真っ白になったし、博人なんかもう、冷静さを失ったどころか、自分さえも失っている気がしたよ。すごく泣いてたもん。…私もだけど」
「すごく…心配かけちゃった…。えっ?ほのちゃんも?」
「…え?私もよ!失礼ねえ。凄く心配したんだからね!」
保乃果は頬を膨らませた。
「ごめんごめん。怒らないでよ、ほのちゃん」
心愛は笑った。
「ほのちゃんも来てくれてたんだね。すごく嬉しい」
「当たり前でしょ!私達親友なんだし」
「しん、ゆう…?」
心愛は目を丸くした。
「うん」保乃果は照れくさそうに俯いて言った。
「ほのちゃん…!ありがとう、すごく嬉しい…!!」
心愛は嬉しさのあまり、保乃果の手を握りしめた。
保乃果は驚いた。心愛に手を握られるとは、予想もしていなかった。
心愛ちゃんはいつも予想外のことをするな、と保乃果は思った。
そういうところに博人は惹かれたのかな、とも思った。
「もう、急にどうしたの、心愛ちゃん」
保乃果は笑いながら心愛の手を握る力を強めた。
友情という名の固い握手を交わしたこの日から、二人は『親友』になった。
「ほのちゃんがそんな風に思ってくれていたなんて…初めて知った」
「…じゃあ、どう思ってたの」
「ほのちゃん、すごく良い人だなあって。なんだかんだで優しいし、面白いし」
「面白い?」保乃果は眉を潜めた。
「うん、面白い!」
「…例えば?」
「うーん、博人さんと話してるときのほのちゃんは、すごく面白いよ。
なんていうか…コントみたい!」
心愛は我慢できずに吹き出した。
「…何よそれ。褒められてるのかわからないじゃないの。しかも、コントみたいって…」
「すごく仲良しで、でも、なんか…うん、コントみたい」
「うーん…」保乃果は考え込んだ。
この娘の言っていることが、たまに理解できないことがある。
たまに不思議なことを言うんだよな、と保乃果は首を傾げながら思った。
「…私、変なこと言った?」保乃果の顔を見て、心愛が慌てたように言った。
「ううん。…ふふっ」保乃果は、我慢できずに腹を抱えて笑い出した。
「…えっ!?ほのちゃん?どうしたの?やっぱり私、変なこと言った…?」
笑い出す保乃果を見て、心愛は怪訝そうな顔で言った。
「あははは…お腹痛い…!」
「えっ!?大丈夫、ほのちゃん…?」
心愛はさらに慌てた。その顔がまた可愛いと、そう保乃果は思った。
「大丈夫大丈夫。笑いすぎた」保乃果は心愛を見て笑った。
「もー、なんでそんなに笑うの…!」
今度は心愛が頬を膨らませた。
「ごめんごめん。博人にもそんな可愛い顔するの?」
「…え?…そんなこと、ないもん…」
「へえ~」
「そんなんじゃないってばあ~!」
「はいはい」
「そんなんじゃないの!」
「わかったわかった。でも、あれだ。
そんな可愛い顔されたら、博人我慢できないだろうな~」
「我慢?」
「だからさ、可愛すぎていろいろと?恋人のスキンシップが、さ」
「ん…それは…」心愛は下を向いた。
「いいねえ、リア充は」
「ほのちゃん…?」
「んーん、何でもない」
「ほのちゃん、いないの?彼氏」
「いないよ」
「好きな人は?」
「…それは」保乃果は言葉に詰まった。
まさか、心愛ちゃんの彼氏を好きだったなんて、口が裂けても言えないー
保乃果はそう思った。
「…あ、私、嫌なこと聞いちゃった…?ごめん、嫌なら答えなくてもー」
「いたよ。すごく好きだった」保乃果は言った。
「ほのちゃん…」
「でもね、振られちゃった」
「ほのちゃん…ごめん、私…」心愛は目を伏せた。
「大丈夫よ。もう振り切れたし」保乃果は明るい声で言った。
「ほんと…?」心愛は心配そうに保乃果を見て言った。
「うん、本当」
「ほのちゃん…。きっと、ほのちゃんを幸せにしてくれる人がいるよ…!
大丈夫だよ」
博人と同じことを言うんだな、と保乃果は思った。
「…それ、博人にも言われた。全く同じこと」
「えっ?そうなの?」
「うん。二人揃って、全く同じこと考えるもんだねえ」保乃果は笑った。
「私もね、博人さんと考えてることが同じだってことが何度かあって、
不思議だなあって思うの」
「本当、不思議ねえ」
「うん、不思議」心愛と保乃果は、顔を見合わせて笑った。
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