希望の夢路

真っ暗な世界の住人

「うわっ、ちょ、無理だこれ!」
「何やってんのよ」
私は呆れて博人の前に立ち塞がった。
博人はアイマスクをつけてふらふらと歩いていたが、無理だ!と叫んで着けていたアイマスクを外した。
「あ、保乃果!」
博人が笑顔で私の方に駆けてくる。
「実はさ、アイマスクしてたんだよ」
「いや、知ってるけど」
「保乃果もしてみない?」
「しないわよ。っていうか、なんでそんなことしてるわけ?」
「それはさ」
「うん」
「とりあえずつけてみてよ。ほら!」
「えっ、ちょ!何すんのよ!」
博人が私の後ろに立って、アイマスクをつけた。
「わ、暗い…」
「だろ?」
「いや、それは当たり前よ。アイマスクしてんだから」
「歩いてみ?」
「は?なに?このまま歩けっていうの?」
「そ。ほら、早く」
「えっ、ちょっとまっ…」
私は、博人に背中を押されて歩き出した。しかし真っ暗だから、どこがどうなってるのか、どう歩いているのかが全くわからない。自分がちゃんと歩けているのかさえわからなくなってきた。
「あ、保乃果、近くに段差あるから気をつけろよ」
「えっ!?どこにあんのよ!わかんないわよ!どこ?」
「ここだって」
博人の声の方へ少し歩いてみるが、
段差があるとは思えなかった。
「どこにあんのよ…いった!」
「あーあ、だから言ったのに」
段差につまずいて転んでしまった私を、博人が起こしてくれた。
ああ、優しい。
「あのねえ!見えないんだから、もうちょっとちゃんと教えてくれてもいいじゃない!手を握って引っ張ってくれるとかさあ…」
「仕方ないだろ?」
「仕方ないって何よっ!」
「なにやってんの、二人で」
「あ、遥香」
「さちはる?」
「もう、お遊びはそこまで!」
さちはるが、私が着けていたアイマスクを外した。
「あー!やっと見えた!」
アイマスクをしていたから、世界が明るく見える。なんか、きらっきらしてみえる。何でだろう。
「実はさ、僕、心愛ちゃんの気持ちを少しでも理解しようと思ってさ…アイマスクをつけて歩いてみたんだ」
「……」
私は言葉が出てこなかった。
そうか。心愛ちゃんのためか。
そうだよね。
大好きな彼女が、盲目になっちゃったんだもんね。普通の人の感覚じゃ、大変だな、とかしか思わないもんね。
恋は盲目、とは言うけれどそれとは全く違う。
普通だったら可哀想とか大変だとか思うんだろうけど、博人の場合は違う。
彼女が、大切な恋人が盲目になってしまったんだし。何より、博人は心愛ちゃんを盲目にしたのは自分だと責めているから、余計に彼女をまるで壊れもののように大切に扱っている。


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