希望の夢路

転ばぬ先の杖

私が目を覚ますと、そこは真っ暗な世界だった。目が見えないから、ずっとこの暗闇の中で過ごしているのだけれど、真っ暗な世界にいること自体がまだ信じられなくて慣れなくて。

「うっ……心愛ちゃん……」

あれ?この声は…彼?
ひろくん、なの…?

「ごめんよ、心愛ちゃん…ううっ…」

どうしたの、ひろくん。
泣いてる…?
泣かないで。
私、笑ってるひろくんが大好きなの。
見えない、けれど。

「ひ、ろ、く…」
何でだろう。
思うように声が出てこない。
体も思うように動かない。
痛いよ、痛い…。

「心愛ちゃん…!?」

彼が強く強く私を抱きしめた。
「んんっ、ひろ、く…」
「ああ!よかった、よかった…!」
彼が強く私を抱きしめてくれた。
すごく嬉しい。
今朝喧嘩しちゃったから尚更、
嬉しくて…。
あれ?ここって、どこ?
確か、私は街中で倒れて…
「ひろく、…」
「どうした?ん?」
彼が優しく私の髪を撫でてくれた。
「ねえ、ここ、ど…」
「ん?ああ、ここ?ここは家だよ。僕と君の家」
「い、え」
「うん、家だよ」
どうして、上手く言葉が出ないの?
もっとひろくんと話したいのに…
上手く話せない。
「な、んで…」
「連絡をもらったんだよ。携帯に電話がかかってきて…非通知だったけど一応出てみたら、君が倒れてるって…」
彼は一旦私から離れた後、私を抱きしめた。
彼の温もりを直に、近くで感じる。
後ろから抱きしめられている気配はない。それよりも、彼は私に覆い被さるように抱きしめているのかな?
なんだか、彼の吐息が…私の顔にかかって、至近距離なんじゃないかってドキドキする。
「言っておくけど…僕は君に覆い被さるようにして君を抱きしめてるからね?今のこの状況、わかる?」
「う、うん……」
ドキドキする。
彼の温もりがとても近くに…。

「目を逸らさない」
「だって…」
「だってじゃないだろ」
彼は、私の顔に自分の顔をくっつけた。

あれ?冷たい…。
やっぱり、彼は泣いてたんだ。
なんか、申し訳ないことしちゃったなあ。

「ごめん、ひろく…」
「大丈夫。君が目を覚ましてくれたから、僕はもう元気になったよ」
「ほん、と?」
「うん、本当」
「ひろ、くん…」
「ん?」
謝りたい。黙って外に出たことを謝りたかった。外になんて出なければ、私はこんなことにはならなかった。
あんな酷い目に遭うことだってなかった。余計彼に迷惑をかけてしまった。
「迷惑じゃないからね」
「ひろくん?」
「だけど、一つだけ…いや、二つ。約束して」
「約束?」
「うん、約束」



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