希望の夢路

カフェで一息

彼女は小走りで玄関へ向かうーと思ったら、カフェに一直線。
「おおっと、カフェに行くの?」
玄関の自動ドアの所へ歩いていた僕は、カフェへ向かう彼女を視界の端に捉えた。
「あっ、うん…!少し見てみたいの」
ふふ、と笑い僕の方を振り向いた彼女はやっぱりー
「綺麗だ」
思わず、心の声が漏れた。
「えっ?何?」
何か言った?と首を傾げる彼女に僕は、何でもないよ、と告げ彼女の方へ小走りで向かった。
「そう…?」
彼女は不思議そうに僕を見た。
「うん。少しここでゆっくりしていこうか」
そういうと、彼女は満面の笑みを僕に向けた。
「うん!ありがとう、ひろくん!」
ゆっくりしていこう、と言っただけでこんなに嬉しそうに笑うなんて、流石、純粋系女子。

「カフェに行きたいって言ってたもんね」
「うん。素敵だなあって」
そう言いながら、彼女はカフェ全体を見回した。
大きなガラス窓から見える外の景色が一望できる、白で統一されたぬくもりのある場所。
丸いテーブルや椅子がたくさん並んでいて、少し奥へ進むとカウンター席もあった。
このカフェには、この美術館に入ったときには少しはくつろいでいる人は僅かにいたが、
今現在は僕と彼女の二人きり。二人きり…。
「ひろくん!ここ座ってもい~い?」
彼女が首を傾げて僕を見た。
駄目だ、なんて言うわけないだろ?君の座りたいところで良いよ。

「いいよ、座ろうか」
彼女が選んだ席は景色が見える窓側の席ではなく、カウンターの席だった。
いつもなら綺麗な景色を見たいから、といって必ずと言っていいほど窓側の席を選ぶのに、
今日は窓から一番遠いこのカウンター席に座る彼女。
珍しいな、どうしたんだろう。
「どうしたの、ひろくん。突っ立ってないで早く座ってよ~」
彼女が僕を手招きした。突っ立ってないで、とは何だ。全く…。
「はいはい」
僕は彼女の隣に座った。
「いいの?いつもは窓側の席に座るのに」
彼女は景色を愛でるのが好きだからーいや、彼女は綺麗な景色を見るのが好きだから
いつも窓側に座るのがいつしか当たり前になっていた。
「うん、いいの」
「そう?」
僕があまりにも不思議そうな顔をしていたからだろうか。
彼女はふふ、と笑いながら窓側に座らなかった理由を話した。
「たまにはね、カウンター席もいいなって」
「なるほど?」
「もー、何で疑問形なの?」
彼女は頬を膨らませながら僕の腕を引っ張った。
「それで?」
「カウンター席、私殆ど座ったことがないから、ただ単に興味があるってだけなの」
「興味、か」
カウンター席への興味か。好奇心旺盛な彼女らしいな、と思った。
「そんなに珍しい?」
「うーん、珍しいというか…」
「というか?」
「よーく、じっくり見てみたいなって思っただけ」
随分と曖昧な表現だな。まあ、それが彼女らしいところでもあるのだけれど、
やはり曖昧に誤魔化されるのは気持ちの良いものではない。
もっとはっきり言ってほしい。

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