希望の夢路
「ひろくん、ひろくん」
彼女が僕を呼ぶ。
「ん?なに?」
「どうしたの、さっきから。何か考えごと?」
「ああ、うん、そんなとこ」
「何を考えてたの?」
彼女が首を傾げる。
「心愛ちゃんと付き合って間もない頃のことを、思い出してね」
「でも、私達、まだ付き合って一年も経ってない」
「うん。ふと思い出すことがあるんだ。付き合って間もない頃よりは、
心愛ちゃん、随分積極的になったよね」
「…もうっ!ひろくんの意地悪!」
彼女は僕に背を向けて走り出した。
「ごめんって。許してよ、ねえ、心愛ちゃん」
僕は彼女を追いかけ、彼女を後ろから抱き締めた。
「…ちゅーしたら許してあげる」
僕は、彼女と深い口づけを交わした。
僕は、彼女と付き合い始めたときのことを思い出しながら、彼女の唇を優しく吸った。


彼女は今、僕の隣で本を読んでいる。
静かに、しかしとても楽しそうに本を読む。
彼女の生き生きとしたその姿に、僕は釘付けになった。
―いや、見惚れていたという方が、正しいかもしれない。
「心愛ちゃん」
僕が名前を呼ぶと、彼女は本から目を離し、真っ直ぐな目で僕を見つめる。
「なんですか?博人さん」
彼女が首を傾げる姿は、とても可愛い。
何をしていても可愛いのだが、首を傾げて僕を見る彼女は、とてつもなく可愛い。
内心、そんな彼女にデレデレしているのだが、
そこは大人で、あくまでもクールで余裕な『大人の男』を演出する。
あくまでも、クールに。
「その本、どう?」
「あっ…!はい、すごく面白いです!」
彼女は目を輝かせながら言った。彼女は本を、テーブルに静かに置いた。
「よかった」
僕は微笑んだ。
「博人さんが買ってくださった本ですもの、面白いに決まってます」
彼女は僕の目をじっと見て言った。
彼女はいつも、僕を喜ばせることばかり言う。
「そんなこと言っても何も出ないよ」
彼女は、目を潤ませながら言った。
「私…そんなつもりで言ったんじゃないのに…」
彼女は俯いてしまった。
僕はついつい、意地悪をしてしまう。
それは、彼女があまりにも可愛いから。
僕は黙って彼女の顔を覗き込んだ。
眉を下げ、困った顔をする彼女は、既に僕の心を乱している。

< 43 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop