希望の夢路

保乃果探偵の極秘調査


保乃果探偵の極秘調査。またの名を『博人と心愛ちゃんをくっつける大作戦』。
―なんて長い調査名なんだ。そしてこの、ネーミングセンスの無さ。
きっと、心愛ちゃんなら良い名前を付けるんだろうな。
ネーミングセンスあるし、あの娘。
依頼人は町田博人。私の元彼で、良き男友達。
そんな友達が今、頭を悩ませているのは彼女のー心愛ちゃんのこと。

「で?」
「え?何だよ」
「何だよ、じゃないでしょ。連絡は未だにつかない?」
「うん、全く…メールも電話も、来ない…」
博人はここ最近ずっと落ち込んでいて、元気がない。
早く元の元気な博人に戻ってほしい。そうじゃないと、こっちの調子が狂う。
「うーん…」
「保乃果、お願いだよ。心愛ちゃんが無事かどうかだけでいい。調べてくれないか」
「いいけど…会わないつもり?」
「…心愛ちゃんは、僕から離れたがってる。だから…」
「バカなこと言うんじゃないわよ!離れたがってるわけないでしょ!」
「保乃果に何がわかるんだよ」
「わかるわよ。だって私、女だもん。心愛ちゃんの気持ちが、痛いほどよくわかる。
好きな人を一途に思う気持ち、わかる」
「保乃果…」
「とにかく!調べてみるから。あと、心愛ちゃんのこと諦めたりしたら私、許さないからね」
「保乃果…。うん、わかったよ。ありがとう」
博人はやっと、笑った。

そういうわけで、私は今張り込みをしている。
張り込みというと悪い人を見張っているようなイメージがあるから、
心愛ちゃんを疑っているようで申し訳ない気持ちになるけれど。
「…ふう」
私は溜息をついた。
ここ数週間心愛ちゃんの行動をずっと見守ってきたが、不審な点は全くなく、
寧ろ心愛ちゃんは普通の平凡な生活を過ごしていた。
元気そうだな、と私は思った。
心愛ちゃんはこの日もいつも通り、夕方になると馴染みのスーパーへ行った。
スーパーを出たとき、エコバッグを手に提げていた。
買い物を終えた彼女は、家への帰途をゆっくりと歩いていった。
いつも通りだ。何の変化もない。
変化がなさ過ぎて、逆につまらない。
「つまんないなー」
私は車の運転席のシートを倒した。
「何か面白いことでもないかなー」
つまらなすぎて、何かが起こるのを期待している自分がいる。
何もないということはとても良いことなのに、つまらないと思ってしまう自分がいる。
「こんなに動きがないっていうのも、珍しいな」
心愛ちゃんは、自ら博人と距離を置いたー壁を作ってしまったという。
どうしてそんなことをしてしまったのかを解明しなければ、
依頼主である博人をただ悶々とさせるだけだ。
「ん~、眠くなってきたな~。でも、起きてなきゃ…」
心愛ちゃんに気付かれないよう、慎重に車で尾行する。
あの娘、変なところで勘が良いから、気を付けないと。
いつものように、心愛ちゃんは馴染みの本屋さんで立ち読みをして一時間後に出てきた。
心愛ちゃんは読書好きだと博人から聞いていた。
私は本なんて全く興味がないからほんの面白さはよくわからないけど、
熱心に本を読めるってすごいなと思う。
私だったら、読んでる途中で寝てしまいそうだけど。
その後は、真っ直ぐ家へ帰るはずー

「あれ?」
私は歩いている心愛ちゃんを見た。
「いつもと、違う…」
そう、いつもと違う方向をゆっくりと歩く心愛ちゃん。
「えっ、嘘。ちょっと待って。どこ行く気?」
眠気は一気に吹き飛んだ。
「この先ってもしかして」
心愛ちゃんは、公園へと足を踏みいれた。
「公園?誰かと待ち合わせ…?」
嫌な予感がする。
まさか、男と待ち合わせ、なんてことはないよね?

―ないない。まさか、博人にベタ惚れな心愛ちゃんが、
彼氏以外の男と待ち合わせだなんて。
しかも、人気のない公園でー

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