希望の夢路

挑戦状という名の挑発

僕は、目の前にいる男の胸ぐらを掴んだ。
「やめてください…!博人さんっ…!」
彼女の透き通った綺麗な声は僕の耳に届いたけれど、この憎き男を許す訳にはいかないんだ。心愛ちゃん、許してくれ。これだけは、君の願いを聞き入れられない。
「君か?僕の心愛ちゃんに触れたのは」
目の前には、にやりと怪しい笑みを浮かべている矢崎智也がいた。
「へえ…こいつか。心愛の彼氏ってのは」
不敵な笑みの智也に、僕は苛立っていた。何でも自分の思い通りになると思っている愚か者にしか見えない。
僕の、僕だけの心愛ちゃんに手を出すとか、絶対に許せない、許さないー。
「博人さんっ、お願いだからやめて…」
彼女が僕の服の袖を引っ張った。
「心愛ちゃんには二度と近付くな!そう約束するんなら、今回だけは見逃してやる」
「ははっ」
智也が腹を抱えて笑いだした。
「何がおかしい?」
「ベタ惚れだな」
「それが何だよ」
僕は、智也を睨んだ。
「それは、俺への挑戦状と受け取るが、それでもいいんだな?」
「挑戦状だと?」
「ああ、そうだ。俺に、心愛を諦めろとでもいうんだろ?」
「勿論だ」
「諦めないぞ、俺は」
「何だと…?」

僕は、智也の胸ぐらを掴んだ手に更に力を込めた。彼女を諦めないだなんて、どれだけ自信家なんだよ。
保乃果がくせ者だと言ったわけが、少しわかった気がした。
こいつはかなりの自信家で金持ちで、我儘を通り越してただの強引な男だなということが、少し話しただけでもわかった。
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