おじさんは予防線にはなりません
私はきっちり定時で仕事を終わらせたけど、宗正さんはまだ仕事をしていた。

「ごめん、詩乃。
ちょっとだけ待ってて」

「了解です」

申し訳なさそうに宗正さんが拝むから、私も笑って返す。
自分の机に再びついて、携帯でネット小説を読みながら待つ。

最近は御曹司とか社長とかが相手の恋愛小説にハマっていた。
オフィス恋愛ものは課長とか係長とかの上司が相手のものも多いが、そういうのは……もしこれが池松さんだったら。
とか想像してあとで虚しくなるので、あまり読みたくない。

「羽坂は宗正待ちか?」

ぼーっと携帯の文字を追っていたら、池松さんから声をかけられて顔をあげた。

「はい」

「そうか。
うまいもん、食わせてもらえ」

八重歯を見せてにかっと笑う池松さんは、私と宗正さんが付き合っていると信じて少しも疑っていない。
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