おじさんは予防線にはなりません
「あ、ありま……せん」

おそるおそる立ち上がり、そろそろと後ろづたいに備品が置いてある棚まで移動する。
ガラス扉を開け、中から村田さんの要望通り十冊、ポケットファイルを掴んだ。

「これでいいでしょうか」

私が差し出すと、真っ赤な爪の指がポケットファイルの束を掴む。

「最初からさっさと渡せばいいのよ」

赤い唇を醜く歪ませて笑い、村田さんは去っていった。

「……はぁーっ」

いなくなってため息が漏れる。

一昨日、後から申請書を書くから先にくれと、強引に村田さんからポケットファイルを持って行かれた。
今日、出されているのはその分の申請書なんだけど。
まさか、あんなことを言ってくるなんて。

「……どうやって数合わせよ」
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