おじさんは予防線にはなりません
ぽいっと弄んでいたパインアメを口に放り込んだ池松さんの口調は、「今日、晴れなんだ」というくらいの感じだった。

「え……。
あの、でも、それっていつも……」

「離婚届、置いていった」

池松さんが困ったように笑う。
私はそれ以上、なにも言えなくなった。

「いつか、こんな日が来るんじゃないかとは思ってたけど。
いざ来ると堪えるな……」

ははっ、小さく池松さんの口から笑いが落ちた。
こんなとき、気の利いたことが言えない自分が憎らしい。
こんなに池松さんは弱っているのに。

「飲みに行きましょう!」

「……は?」

池松さんの目が、思いっきり見開かれる。

「その、飲んで忘れるとか無理かもしれませんが、気は紛らわせます。
だから」
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