おじさんは予防線にはなりません
「そうですか……」

医者から告げられてもため息しか出ない。
昨日はネクタイを選ぶのを諦めてさっさと宗正さんを無視して帰ればよかった。
けれど、いまさら後悔したってもう遅い。

「どうだった?」

診察室を出た私の頬に貼られた大きなガーゼを見て、池松さんは痛そうに顔をしかめた。

「痕が残るかもしれないそうです」

心配させたくなくて笑顔を作って答える。
でも池松さんの方が泣き出しそうになっていた。

「すまなかった。
もっと早く気づいていれば、こんなことにはならなかったのに」

池松さんに勢いよくあたまを下げられて慌てた。

悪いのは池松さんじゃなくて森迫さんだ。

そして、こうなることが薄々わかっていたのに、宗正さんを避けられたなかった自分にも責任がある。

「池松さんが悪いんじゃないですから」
あたまをあげた池松さん、は眼鏡の奥からまっすぐに私を見た。

「いや、俺にも責任はある。
この傷はちゃんと、責任を取るから」

まるでプロポーズのような台詞に……知らず知らず、喉がごくりと鳴った。
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