かわいい戦争




「だ、だけど、璃汰は……?」


「あたしは無料タクシーで事務所まで行くわ」


「無料タクシーって俺らのことか?」


「他に誰がいるのよ」


「デスヨネ」




棒読みで返事をした低身長の男の子を横目に、璃汰はわたしの背中を押した。



「だからあなたは帰って。もう用済みよ」



ひどい言い草。

でも、知ってる。


高身長の男の子から、わたしを逃がしてくれるんでしょ?



「う、うん……じゃあ、またね璃汰。気をつけてね!」



璃汰の言葉に甘えて、雨水をたっぷり含んで重たくなったバックを抱えるように持ち、璃汰たちと別れた。





――パシャッ。


水たまりが、跳ねる。



――パシャッ。


スニーカーの中まで滲みていく。





――カシャッ。



雨音に同化した、シャッター音。

横断歩道のそばで、カメラを向ける人影がひとつ。



「……これは特ダネだ」



フィルムに写されたのは――。





< 60 / 356 >

この作品をシェア

pagetop