OMUKAE☆DATE♪
「ウチのお嬢ナンパしないでください」

篠原君はすっかりあわてている。
――おもしろい。

「えっ?ユリちゃんって前田さんの妹?」

「姪です。何でユリちゃんの名前知ってんの?」

「今、保母さんに聞いた。姪なの?姪か……」
篠原君はユリちゃんを見た。



その時、保夫さんが赤ちゃんを抱えて来た。

「眠ってたんだけど、抱っこしたら起きちゃった。少し機嫌悪いかも」

篠原君に渡される赤ちゃん。保父さんの手が離れる。
……と、同時にグズりだした赤ちゃん。

保父さんは天井を見ながら、
「俺も修行が足りないぜ」
と、呟いた。

何のこっちゃ。

「そちらのお嬢さんは……」
保父さんに聞かれ、

「仁科の妹です。ユリちゃんを迎えに来ました」

「ああ、今朝、電話がありましたね。申し訳ないです。

遅くまで見ていてあげられるのが、この園ウリのはずなのに」
そして、ユリちゃんを抱き上げると、

「でも、防犯や災害対策にも関わる工事なんです。

これからもますます、いい園であるように心がけますよ。

お姉さんにもそうお伝え下さい」
と、守護天使スマイル。
ユリちゃんを抱きかかえ私の方へ渡す。

熱い。
熱いぜ、保父さん。

ユリちゃんは案の定、泣きだした。
単に私がだっこするのに慣れていないからだ。

他にも迎えに来たお母さんらしき人がいる。
ちょっと大きな子達が走りまわり始めた。

「また明日ね~」
手を振る保父さん保母さんに見送られ、保育園の門を出る。

篠原君と二人。子連れ。なんだか変な光景。

「前田さん、家、どっち?」

「向こう」

「どの辺?」

「図書館の近く」

「じゃ、方向同じだ」

なんとなくホッとしてるように見えるのは、気のせいか。

たしかに子供を抱えてこの道のり、一人は心細い。

「篠原くん、質問。その子は篠原君の弟?」

「う~ん、そんな感じだけど違う。どちらかと言うと甥っこに近いかなあ……」

ハッキリしませんね。

「もうひとつ、篠原くんに質問。なんでユリちゃんと話すときおネエ言葉なの?」

「ガハッ……‼」

篠原君が身体を折って咳き込む。

「あれは、
……あれは年下の女の子と話すときのキャラで……卓にいが、

『警戒されないためにはこれが一番』って言うから……つい……影響されて」

「タクニイ?」

「この子、ヨウタのお父さん」

そのヨウタくんは、先程のアヒルを持って(かじって)おとなしくしている。

「タクニイさんって、おネエなの?」

「ときどき」

「オミズのひと……とか?」

「ちがう」

その時、ユリちゃんがニギニギを放り投げた。

妬いてる?
私が男子と話してばかりなんで、

妬いてる?

ゆるゆるかがんで拾う。

「それとね、篠原君。アヒルは雛、黄色いよ?」

「え?」

「お風呂アヒルは雛なんじゃないの?」

「おーまいがーっつ‼」

天をあおいで大げさにショックを受ける篠原君を見て、ユリちゃんが笑いだした。

「あはっ、キャハっキャハハっ!」

「あ~もう!前田さんが余計なことゆーから、ユリちゃんに笑われちゃったじゃないか」
ふてくされる篠原君。

あたしのせいかよ。

「お兄さんなの?タクニイさんって」

気になる。

クラスではおとなしめで、やさ男系クール男子な篠原君が、誰の真似をしておネエ言葉。

気になる。

「……そんなようなものだけど、ちょっと違う」
考えながら、篠原君は言う。

「いとこ?」

「違う。親戚かって言うなら、血の繋がりはない他人」
篠原君はまたしばらく考えてから言った。


「ちょっと会ってみる?」









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