流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
「みなの者、静まれい!」

 マウリス伯がざわついた場内を見渡す。

「国王陛下がお亡くなりになった。地の果てまで反逆者を追い、王室の名誉を回復しなければならない。本来であれば正当な継承者であるエミリア王女が国政を司るところではあるが、状況を鑑み、非常事態を宣言する」

 マウリス伯は壇から一歩下りてシューラー卿の前に跪いた。

「カーザール帝国よりお越しいただいたシューラー閣下にはこのような不祥事に対するご無礼を深くお詫び申し上げます」

「いや、このような事態にも動ぜず難局を乗り切ろうとするお覚悟、感服つかまつった」

「過分なお言葉を頂戴し、まことに感謝いたします。つきましては、この難局にあたり、ぜひともカーザール帝国の御威光により、我が王家に御助勢をいただきたく存じます」

「いかようなことも両国の友好のためとあらば皇帝陛下も反対はなさるまい」

 マウリス伯は立ち上がって壇上に上がるとシューラー卿の隣に並んで振り向いた。

 一堂の者を見おろしながら高らかに告げた。

「これよりアマトラニ王国はカーザール帝国の庇護の下、このマウリスが摂政として治安回復に全力を挙げる。その間、エミリア王女の身柄はカーザール帝国に保護していただくものとする。異存のある者は今この場においてシューラー閣下に申し立てるが良い」

 居並ぶ諸侯達の間にざわめきが広がるが、異議を唱える者はいない。

「では、これよりカーザール帝国のご厚意、ならびに摂政である私の指示に異を唱える者は王家への反逆者として処罰する。よろしいですな」

 壇上から一同を睥睨するマウリス伯に視線を合わせる者はいなかった。

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