王女にツバメ
閉めて挟まっても困るけれど、開けられても困る。その間で迷いながらも、ドアノブを手前に引いていた。
「裏葉さん、俺なんかした?」
両手でドアノブを握るあたしとは反対に、琉生は極めて冷静に尋ねる。扉はびくともしない。
「……してないと思う」
「じゃ、なんで連絡返してくんないの」
握力がなくなり、やがて扉は開かれた。
どう返事をすべきか考えて、俯く。
「裏葉さん」
琉生は、年相応の格好をしていた。ショート丈のモッズコートに、黒いチノパン、スニーカーを履いている。
あたしに会う時だけ、わざわざジャケットとか着てきたのだと思うと、今更少し可愛く思えてきた。