孤独であった少女に愛情を
結局、先生はどうんな目的でここに来たのだろう?

分からないまま時間が過ぎ、夕食の時間になった。
書斎で仕事をしていたという先生のお父さんも、食卓に一緒についた。

「寛也さんはね、人参が嫌いなのよ。

子供みたいでしょ。」

先生のお母さんはそう言ってクスクスと笑った。

ほんわかしていて、どこか温かい喋り方。

「やめてよ、母さん。恥ずかしい。」

先生は少し耳を赤くした。

こんな風に耳を赤くする先生を、私は初めて見た。
敬語ではない喋り方も新鮮で、家族といるときはいつもこんな感じなのかな、と一人で思った。

それからも、先生の子供の頃の話や先生の意外な事を、先生が「やめて」と言いながら、先生のお母さんは話してくれた。

こんな明るい食事は初めてで。

笑い声が食卓に乗って踊り出す。
温かな空気に包まれる。

楽しかった。

けれど、そんな空間に私は一人、浮いて感じた。

「Aさん、どうしたんですか。」

目の前に座っていた先生が、
そう言って私の方を心配そうに見つめた。

「いや、なんでもないですよ。ごめんなさい。

なんでもないんです。」

私は慌てて両手を顔の前で何度も交差して振った。

私の目からは涙が一筋流れた。

ただ、こんな食事初めてだから。
嬉しいのかな?
どうしてかな。

先生のお母さんとお父さんが顔を見合わせていた。

目を少し細めて眉毛を下げて、

「今日は知らないお家に来て疲れたのだろう。

寛也も何も言わず連れてきたと言うし。」

先生のお父さんがそう言った。

「もう今日はゆっくり休むといいわ。」

ああ、ここの家族は温かい。
私には、耐えられないくらい。

胸が苦しくなるほどに優しくて温かい。
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