早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
落ち込みかけた気分が浮上してきたとき、両肩に手を置かれて身体を離される。


「つーか、髪冷たい。ほら、さっさと乾かすぞ」


話も雰囲気もコロッと変えた尚くんは、腰を上げて私の手を引いた。そのまま洗面所に連れて行かれ、彼が私の背後でドライヤーを構えるので、慌てて制する。


「尚くん! いいよ、これくらい自分でやるから」

「お前の気持ちよさそうな顔が見たいんだよ」


彼はいたずらっぽく口角を上げ、なんだかちょっぴり妖しげなことを言ってドライヤーをかけ始めた。

……うん。確かに気持ちいいんだ、これ。こうやって乾かしてくれることは昔からたまにあって、結局毎回されるがままになってしまう。

美容院でしてもらってもたいして思わないのに、尚くんの手で優しく髪を弄られると、身も心もとろけそうになるから不思議。

やっぱり子供と同じ扱いだ。けれど、今は前ほどネガティブな考えにはならない。

彼の中に存在している〝キョウ〟も、それなりに成長しているんじゃないかと、自信が持てるようになってきたから。

胸を張って夫婦だと宣言できるようになる日を心待ちにして、鏡に映る大好きな人と、セミロングの髪がさらさらと揺れるのを眺めていた。


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