早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
「野々宮 杏華、あなたは、面倒くさがりの久礼尚秋に愛想を尽かさず、いかなる道も共に歩み、一生笑顔でいることを誓いますか?」

「はい、誓います」


アレンジしまくりの言葉に、口元に手を当ててクスクス笑っていた私も、姿勢を正して答えた。

この答えは嘘じゃないよ。尚くんとならいつまでも一緒にいられるし、ずっと笑っていられる自信があるから。

心の中で、彼にそう伝えていたときだった。

こちらに手が伸びてきて首と頬骨のあたりを支えられ、私を見つめていた綺麗な瞳に、淡い情熱のようなものが交じる。

さらに、表情に男らしさをかいま見せた顔が近づいてきて──。

唇同士がくっついた。体温を確かめるみたいに、そっと。

……なにが起こっているのか、すぐには理解できなかった。

唇に感じる初めての感触と、尚くんがありえないほど近くに接近していることに、ただただ呆気に取られていた。

柔らかなそれが離れていき、斜めに流した長めの前髪がかかる瞳と視線が絡まる。

ようやく心臓が激しく動き始め、声も出せず目を見開くだけの私に、彼はいたずらっぽく口角を上げて甘く囁いた。


「誓いのキス、実践させてもらった。お前があまりにも可愛いから」


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