月の記憶、風と大地
鴻江の不正は数年、続いていたようだ。

普段から購入金額を高く領収書を切ってもらい、差額を受け取っていたらしい。

経理部と取引先もグルになっていて気づかなかったのだ。
信頼の厚いとされた経理部の男はいつ不正が発覚するか常に恐怖を常に感じており、それが限界に達して胃潰瘍を起こしたらしい。

差額の他にも日用品購入や飲食に充てた領収書が出てきた。


「鴻江の非ではありません。管理できていなかった私に、全ての責任はあります」


常務、副社長、社長。
課長、部長、全ての役員が窓を背に長テーブルのについている。
会議室で緊急に開かれた理事会で和人は云った。

すでに司直の手は入っている。
和人は退職届けを提出すると礼をして身を翻す。


誰も引き止めはしなかった。
むしろ和人は切られたと云ってもいい。


太田美羽の件も知られる事となったが、それは美羽が既に退職しているので咎められることはなかった。


いずれにせよ自分はこうなる運命だったのだ。


和人は長年勤めた会社を見上げる。


「薄情なもんだ。散々、儲けさせてやったのに」

毒づいたものの表情はさっぱりと晴れていた。
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